Introduction
はじめに
戦国武将の仕事はCRMだった?
CRMという言葉には、なぜこうも「アレもコレもやらねばならない感じ」が漂うのでしょうか。顧客データの集計と分析、具体策の企画・制作・実行、その結果検証と改善……。取り組めば取り組むほど、慌ただしさが増して会議は長くなり、現場は準備の遅れで防戦一方。気づけば、その光景はまさに「戦国時代」の様相です。
D2Cビジネスの現場でCRMに長く関わっていると、規模も業種もまったく違う企業が、なぜか同じところで立ち止まってしまう場面に何度も遭遇します。システムツールは導入され、データも分析できる。実行する施策の選択肢も、だいたい出そろっている。それでも、「次に、どうすべきか」が決まらないのです。会議では資料が丁寧に準備され、実績や各種の分析資料も揃っている。ところが、いちばん大切な最終判断だけが、「次回までの宿題」「決定打が見つかるまで従来通り」として先送りされていきます。
先送りの原因をたどっていくと、その奥には「そもそも、その施策は必要なのか」「もっと効果的な方法があるのではないか」という、議論の前提そのものへの迷いがあります。正しいことを積み上げてきたはずなのに、いつの間にか「どれも正しく見えて、決められない」状態に陥っている。
この構造に気づいたとき、ふと私の頭に浮かんだのが戦国時代の武将たちでした。限られた兵力、限られた資金、限られた時間。状況を完全に把握することは難しく、判断を誤れば一瞬で形勢が崩れる。それでも決断を先送りすれば、戦況は悪くなる一方です。
もちろん、戦国武将たちには兵力データベースがあったわけでも、分析ツールを持っていたわけでもありません。それでも彼らは、混乱の中で情報を集め、判断を下し続け、生き抜いてきました。とりわけ名を残す武将ほど、限られた情報の中で「どこまで戦えるのか」を見極めた上で、次の一手を選んでいたのです。こうして見ると、戦国武将と私たちのCRMが置かれている構造は、驚くほど似ています。
しかし、現代のCRMには決定的な違いがあります。データはある。分析環境も整っている。それにもかかわらず、「どこまで戦えるのか」が分からないまま戦っている。
例えば、F2転換ひとつをとってもそうです。1年後にいくら回収できるのか。それならば、あといくら投資してもよいのか。転換施策をどこまで続けるべきなのか。本来、こうした判断の前提があるはずです。しかし現実には、その前提が曖昧なまま「効率が悪いからやめる」「とりあえず現状を踏襲する」といった意思決定が繰り返されています。
この状態に心当たりがあるなら、それはすでに「負ける戦」に入っている可能性があります。攻めることもやる。守ることもやる。関係も作る。分析も進める。すべてを同時にやろうとして、結果的にどの戦い方も中途半端になる。これが、「分かっているのに上手くいかない」CRMの正体です。問題は、正解が分からないことではありません。どの戦い方を選ぶかを決めていないこと、そして、その判断を支える情報が整理されていないことです。
本書では、CRMを次のように再定義します。CRM:Customer Retention Management「顧客の継続利用を最大化するマネジメント」
どの顧客に、どのタイミングで、どれだけ投資するのか。その判断の積み重ねによって、継続的に選ばれ続ける状態をつくる。それが、CRMの本質です。つまり、問われているのは「何をやるか」ではありません。どの判断を選ぶかです。
本書では、その違いを明らかにするために、戦国武将たちをあえて戦わせます。同じCRMの課題に対して、異なる戦い方をぶつける。どちらも正しそうに見える。しかし、同時には選べない。だからこそ、判断が問われます。
では、どうすれば、あなたのCRMは変わるのでしょうか。戦国武将たちは、何を見て、何を捨て、どの瞬間に決断していたのか。その違いを、対戦というかたちで見ていきます。
同じ課題でも、選び方が違えば、結果はまったく変わります。あなたは、どの戦い方を選びますか。